財務諸表について具体例を見ながら内容をおさらいしたいと思ったので流し見してみます。以下では『2022年8月期 ラサールロジポート投資法人 決算短信(REIT)』の例を参照してます。
基本
- 企業活動は資金調達・資金投下・営業の三つ
- 資産=資本+負債
- 資本=資本主が出資したもの
- 負債=債権者から調達したもの
- 資産=営業活動に必要な商品や設備
- 財務諸表
- 貸借対照表(B/S)=財政状態を示したもの
- 資産=資本+負債
- 左側=資金の投入先のリスト
- 右側=資金の調達元・負債の部は返済が必要であり、純資産の部は返済を必要としない
- 流動負債・流動資産=短期で現金に変わるもの(証券が現金に、負債を返済して現金に)
- 損益計算書(P/L)=経営成績を示したもの
- 収益と費用(収益 - 費用=利益)
- キャッシュ・フロー計算書(C/F)
- 株主資本等変動計算書(S/S)
- 貸借対照表(B/S)=財政状態を示したもの
貸借対照表(B/S)
『流動負債・流動資産』は一年基準に基づくならば一年以内に履行されるものは流動項目になる。だから、流動負債を履行するための現金を含む流動資産が十分キープできているかは健全さを見る上での指標になる。
『固定資産』は長期的に移動することが難しい資産であり、これを返済不要な資産(純資産)と、長期で返済すればいい固定負債でどれくらいカバーできているかも確認すべき。
- 資産
- 流動資産
- 当座資産
- 現金同等物
- 受取手形・売掛金・販売金融債権
- 棚卸資産=簿記2級の範囲
- 現金→原材料→仕掛品→半製品→製品→売掛金
- 当座資産
- 固定資産
- 有形固定資産(建物・工具・車両や船舶のような輸送機・機械装置・土地・建設仮勘定)
- 無形固定資産(権利・のれん・ソフトウェア)
- その他の資産
- 一年を超える期限を持つ貸付金・預金
- 前払利息・前払保険料
- 繰延資産
- 流動資産
キャッシュ・フローとは、現金の流れを意味し、主に企業活動や財務活動によって実際に得られた収入から、外部への支出を差し引いて手元に残る資金の流れのことをいう。(出典:キャッシュ・フロー - Wikipedia)
『将来キャッシュフロー』とは将来の現金収入 - その収入を得るために必要な現金支出のことを指している。用益潜在力(service potential、潜在用役力とも)とは、資産が将来キャッシュフローをもたらす能力を指す。将来のキャッシュフローを現在の価値にする場合、利子が高いほどその価値は低くなる(割引現在価値)。
- 負債
- 営業上の負債=簿記3級の内容
- 支払手形・買掛金・前受金
- 有利子負債
- 銀行からの借り入れ・社債・リース債務など
- 転換社債:わかりやすい用語集 解説:転換社債(てんかんしゃさい) | 三井住友DSアセットマネジメント
- 新株予約権付社債
- リース債務 | クラウド会計ソフト マネーフォワード
- 他には退職金引当金などがある
- 営業上の負債=簿記3級の内容
流動資産 > 流動負債ならば短期の資金繰りは問題がない。流動資産 < 流動負債の場合は、得られる資金が減少しているか短期で返済すべき負債が増加していることになる。それが一時的な要因かどうかは必ずチェックする。
流動資産 > 流動負債であったとしても、流動資産の内訳が商品ばかりの場合はそれを現金化することが困難になっている可能性がある。業種によって何が問題となっているかは整理すべき。
- 純資産
- 株主資本
- 資本金=株主か株式と引き換えて拠出した金額
- 資本剰余金=株主が拠出した金額で資本金とならなかった部分
- 利益剰余金
- 利益準備金=債権者を保護するための分配不可部分
- 任意積立金=株主総会の証人を経て設定した自由な設定枠
- 繰越利益剰余金=以前の年度+当期純利益の合計
- 新株予約券
- 非支配株主持分
- その他の包括利益累計・評価換算差額
- 株主資本
『純資産』が増加していれば健全さは増していると見れる。 資本金は必要最小限だけ計上することが多い、資本金が多いと利益準備金の積立がかさみ、配当限度額が少なくなる。 上記純資産のうち、繰越利益剰余金が配当金を支払うための源泉となる。この部分が増加しているかによって配当を支払う余力があるか判断できる(が、これだけで会社に投資するべきかの判断は普通はしない)。ただし債権者保護は当然する必要があるので、剰余金すべてが配当に回るわけではなく維持すべき純資産の額と評価・換算差額を考慮して決定される。このあたりは簿記で学んだ内容を思い出す。
『その他の包括利益累計』には、その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益のような評価差額が損益計算書に計上されず、貸借対照表に計上されるときの評価差額が計上される(出典)。典型的なものは上場会社が相互に株式を保有している場合の時価評価額の差額など。
また純資産は資産の帰属先という視点で分類すると「親会社の既存株主」「子会社の非支配株主」「将来に株主になる可能性がある者」と分類できる。たとえば、新株予約券は将来に株主になる可能性がある者に帰属している。
自己資本とは”会社や事業に使えるお金(=総資本)のうち、自分で集めたお金”を指している。何を自己資本と見るかは人によるかもしれないが、「親会社の既存株主」に所属している純資産が最も言葉のイメージに近い。
配当金や積立金への割当が多すぎる企業はこの『繰越利益剰余金』がマイナスになるケース(赤字経営 or 過剰な配当金支払い)もあり、これは健全ではないことが多い。ただし、会社法の財源規制により過剰な配当金支払いがマイナス剰余金として反映されることはまずない。
例に用いているのはREITであるため配当性向の高いが通常の企業は配当性向100.0%はまずないので注意。また、利益の多くを分配金に充てることは内部留保(=分配金とならなかった)が少ないということ。内部留保が少ないと自己資本比率も増加しにくい。
損益計算書(P/L)
P/Lは1年間の経営活動の結果得られた成果をまとめたものであり、「収益」「費用」「利益」の観点で構成されている。売上高から売上原価を差し引いたものが広い意味での利益となる。具体的には売上高から売上原価を差し引いたものが「売上総利益」、そこから販管費を引いた「営業利益」、営業外損益を引いた「経常利益」、特別損益を引いた「税引前当期純利益」、税金を差し引いた「当期純利益」。
- 売上総利益 =粗利
- 営業利益=本業によるもうけ
- 経常利益=本業以外の利益も含んだもうけ
- 当期純利益=今季の最終的な利益であり、純利益
つまり、本業がうまくいっているかは売上高・営業利益が、本業以外も含めた経営がうまくいっているかは経常利益の推移が参考になる。最終的にはEPS(1株当たり純利益)の推移も見る必要がある。また、利益を効率よく得られるように資産を活用できているかという面で「純資産」と「純利益」の比較もできる(=ROE, 当期純利益/純資産)。
そして、費用・収益の分類も売上総利益~当期純利益のように企業活動の種類を使って分類できる。
- 営業活動
- 仕入・生産:売上原価
- 販売・回収・経営管理:販管費・管理費
- 売上高=営業活動から得られたもの
- 金融活動
- 営業外費用
- 営業外収益=金融活動から得られたもの
- 特別損失・特別利益
損益計算書の構成は業種によってかなり異なる。そのため同業間で比較しながら健全かどうかを判断する。何をもって収益とするかは複数の基準があるので注意する(同じ収益基準の企業を比較する場合は問題ない)。
商業の売上原価は「期首商品棚卸高+登記商品仕入高ー期末商品棚卸高」で計算される。製造業の場合は異なる仕訳になるが原理は同じだが、1製品あたりの原価を計算するため複雑になる。以下は各内容の構成(簿記2級で学んだ内容)。
- 原材料
- 期首棚卸高+当期仕入高
- 当期に消費した分(材料費)+期末棚卸高
- 賃金
- 減価償却費
- 仕掛品
- 期首棚卸高+当期製造費用
- 当期製品製造原価(完成品)+期末棚卸高
- 製品
- 期首棚卸高+当期製品製造原価
- 売上原価+期末棚卸高
株主資本等変動計算書(S/S)
そして、特に貸借対照表の純資産の変動に注目したものが株主資本等変動計算書。以下の例の『剰余金の配当』は配当金のことを指している。『利益超過分配』は会社型投資信託が実施する資本の払い戻しに該当する分配金のことを指しているが、通常はこの項目はない。
REITなどにおける投資家への分配金は、原則として得られた利益を原資とするが、利益超過分配金は、会計上は費用として計上される減価償却費のうち、実際は支出しないと予想される金額を利益とは別に分配するもので、会計処理上は資本の払い戻し(減資)となる。(出典:利益超過分配金とは|不動産用語集|三井住友トラスト不動産:三井住友信託銀行グループ)
とくに配当については貸借対照表の「資本剰余金」「利益剰余金」から配当が割り当てられる。そして配当性向(Dividend payout ratio)とは『当期純利益の中から配当として出した割合』を指しており、25%前後が普通といわれているらしい。高ければ高いほど配当ももらえるが投資に回さない分企業としての成長がないかもしれない点に注意する。また、配当性向だけを見ると自社株買いをする企業が評価できないので注意(配当性向 = (配当 + 自社株買い) / 同期間の純利益 として計算することもできる)。一般に、配当性向は小規模で成長中の企業ほど少なくなる傾向にある。
キャッシュフローを計算書(C/F)
キャッシュ・フロー計算書は一会計期間における現金相当資金の増減(キャッシュ・フロー)を可視化したものであり、
- 営業活動
- 投資活動
- 財務活動
の三つの視点から記載される。C/Fは現金と現金同等物に限定した変化のみに着目していて、企業の現金創出能力と支払い能力を可視化したものと見れる。wikipediaによると、キャッシュフロー計算書は以下の状態を判断するのに活用できるという。
- 企業が将来の資金流入を生み出す能力があるか
- 企業が債務や配当金を支払う能力があるか
- 利益やそれに伴う現金の受け取りや支払いの違いの理由
- 企業の投資と財務の取引の現金及び現金以外の側面
資本金の変化理由を可視化したものが損益計算書だとすれば、現金・現金同等物が変化した理由を示したものがキャッシュフロー計算書。
ラサールロジポートの文言に基づくと、
営業活動によるキャッシュ・フロー =
- 税引前当期純利益
- 非支出の費用の加算(減価償却費・投資口交付費償却 ...)
- 非支出の収益の控除(固定資産売却益など)
- 金融収益(利息の受取額・利息の支払額...)
- 運転資本の増減調整(上記例にはない項目)
を足したものが営業循環から生み出されたキャッシュフローになる[1]。これが営業利益と比較してどのような状態かは一度確認する。
特に、いわゆるフリーキャッシュフロー(FCF)とは「営業キャッシュフロー」と「投資キャッシュ・フロー」の和、つまり事業の「営業キャッシュフロー」が必要な設備投資を上回っている金額を示している。言い換えると、運営に問題を引き起こすことなく債権者や証券保有者に分配できるキャッシュフロー(問題なく自由にできるから"free"、だと思う)。DCF法の視点に立つと、企業の根本的な価値=将来予想されるすべてのフリー キャッシュフローの現在価値としている。
計算方法 | 数値の出典 |
---|---|
利息・税引前利益 (EBIT) | 損益計算書 |
+減価償却費 | 損益計算書 |
- 税金 | 損益計算書 |
-運転資本の変化 | 前期と当期の貸借対照表: 資産と負債の勘定 |
-設備投資(CAPEX) | 前期と当期の貸借対照表: 資産と負債の勘定、設備勘定 |
=フリーキャッシュフロー |
収益性と成長性を見る
企業の収益性と成長性、そして財務の健全性を見る指標は多岐にわたる。また、収益性と成長性以外にも業種ごとに別の指標を組合わせて見ることも必要になる。すべての指標について『業種によって目安となる基準は異なる』という注意が必要。また、大企業の場合は複数の事業領域を持つ場合がある。
上のKOFの場合は、飲料の中でも種類ごとに、また南米の中でも国ごとに事業がある。このような複数の事業がある場合はそれぞれで利益率や売上原価が大きく異なることもあるので最終的にそれらをひとつにまとめた指標だけで比較するのでは不十分な場合もある。
有名な指標の定義は日本取引所の用語集などにも載っている。
- ROA(総資本利益率)=事業に対して投資された資産がどれだけ効率よく運用されているか
- 利益(事業利益)/総資本
- 利益/売上高(売上高利益率)×売上高/総資本(資本回転率)
- 総資産=流動資産、固定資産、繰延資産の合計
- 総資本=負債と純資産の合計
- 5%以上が目安
- ROE(自己資本純利益率) = 自己資本に限定して利益と比較する
- 自己資本=株主に帰属している資本
- 資本金・資本準備金・資本剰余金・利益準備金・利益剰余金の株主資本に評価・換算差額を加減した額
- 10%以上が目安
- デュポンシステム=ROEを以下の三つに分解すること
- ①収益性(売上高利益率)=当期純利益/売上高
- ②資産の効率性(総資産回転率)=売上高/総資本
- ③財政状態(財務レバレッジ)=総資本/自己資本
- デュポン公式 | みずほ証券 ファイナンス用語集
- 売上高利益率
- 損益計算書上の利益の額を売上高で除した値だが、分子側に”利益”として何を使用するかで名称が異なる
- 売上高総利益率(粗利率) = 売上総利益 ÷ 売上高
- EBITDAマージン = EBITDA ÷ 売上高
- 10% 以上のEBITDAマージンは良好(出典)
- EBITDA
- 税引前利益に特別損益・支払利息・減価償却費を加算した値
- D/Eレシオ
- 負債資本倍率(Debt Equity Ratio)、有利子負債が自己資本の何倍かを計算した数値を示している
- 150~200%以下が目安
参考文献
- 財務諸表分析(第8版), https://books.google.co.jp/books?id=tHdOAQAACAAJ, 中央経済社(2017)